1. 「できない」を言わない男たちが直面した閉塞感
そのリフォーム会社は、まさに「職人の心意気」で成り立つ会社でした。しかし、技術と誠実さだけでは乗り越えられない、構造的な問題に直面していました。
私のコンサルティングは、この会社の最大の資産である「誠実さ」を、いかに収益に結びつけるかという挑戦からスタートしました。
2. コンサルタントが抱えていた葛藤と「絞る」覚悟
積極的な営業に踏み切れない経営陣に対し、私はまず自らの経験を共有しました。
「社長、『あれもできる、これもできる』とチラシに謳いたくなる気持ち、痛いほど分かります。私も仕事が欲しいから、どんな人にもお客さんになってほしくて、以前はそうしていました。また、一度に大量にお問い合わせが来ても対応できず、困ってしまうという不安も、私自身が過去に味わった葛藤です。」
その上で、核心を突きます。
「でも、いまの私は『絞れば増える』を実感しています。『この分野なら当社へ』とフォーカスできた方が、プロっぽいんです。そして、お客様も覚えやすい。『受験勉強』と同じで、情報が分散すると何も記憶に残らないんです。」
この「共感」と「自身の体験」というメタファーが、経営陣の心の壁を崩しました。ブランディングとは、「イザという時に、狙ったことで思い出してもらうための戦略」であり、そのためには得意分野に「絞る」覚悟が必要だと理解されたのです。

3. チラシを「捨てられない情報源」に変える
経営陣が作成した最初のチラシは、誰にも当てはまる「優等生」の内容でした。私は、厳しい指摘をせず、チラシの持つ役割について、やんわりと揺さぶりをかけました。
「社長、このチラシは『優等生』ですが、他社と並べられたら、違いがわかりませんよね。今、私たちはポスティングという労力を投じようとしています。その労力が報われるよう、チラシを『リマインド』として機能させましょうよ。」
独自の知識を武器に: 「修理の仕方には幅があります。お客様にわかるようにご説明いたします」という、〇〇の提案力を示唆するメッセージを強調。
知恵の共有: 「〇〇は〇〇です」「〇〇対策は壊さずに」といった、お客様が得する専門知識を盛り込むことで、チラシを「とっておく理由」を明確にしました。
4. 危機意識を「行動」という名のエネルギーに変える
財務に関するやりとりも、抽象的な議論では終わりません。私は、具体的な数値目標の必要性を説きました。
「目標売上を達成しても、粗利率が低いままでは報われません。この『感度分析図』をご覧ください。粗利が1%上がるごとに、借入金の返済に回せる『自由な余力』がこれだけ生まれる。これを達成することが、御社の命綱なのです。」
この視覚的な気づきは、経営陣の行動を加速させました。彼らは決意を語ってくれました。
「分かりました。もう100点を目指すのはやめます。30点のチラシでも、印刷して年内に配ります。」
「職人の心意気」に「絞る戦略」と「30点主義の行動力」が加わった瞬間でした。自力で飛び立つ、力強い一歩が踏み出されたことこそ、このコンサルティングの最大の成果と言えます。